オバマ政権で何が変わるか
「なぜ、60年たらず前だったら地元のレストランで食事をさせてもらえなかったかもしれない父をもつ男が、(大統領就任の)神聖な宣誓のためにあなたたちの前にたつことができるのか」。これは1月20日のアフリカ系のバラク・オバマ米大統領の就任演説の最後に自分をひきあいにだした部分だ。
この演説で思い出すことがある。いまから半世紀前、ぼくは所沢高校の英語部のメンバーだった。週一回、熱心に英語を教えにくる二人の黒人兵がいた。一人はフロリダ州出身のハナさん、もう一人はアーカンソー州出身のコールマンさん。二人はジョンソン米空軍基地(現在の航空自衛隊入間基地)に勤務していた。
当時のアメリカは人種差別のはげしい国だった。肌の色で日常生活が差別されていた。海外ニュースでアメリカの人種差別の報道も目にしたことがある。だが、つたない英語では、軍隊内ではどうだったか聞くこともできなかった。ハナさんが日本人の女性と結婚するという話は聞いていた。フロリダに帰るとどんな差別のなかで生活するのかな、と複雑な気持ちになった。
ぼくは、この二人の黒人兵から英語をまなんだが、いまでも記憶に残っていることがある。一つは、1960年のアメリカ大統領選挙のゆくえの話になり、ケネディはニクソンに負けるだろうということ。結果は民主党のケネディが勝利した。二つには、「ハンバーグを食べたことがあるか?」と聞かれたこと、当時みたことも食べたこともないので、説明されてもイメージが浮かんでこなかった。もう一つは給料のことだ。
当時1ドルは360円。若いアメリカ兵の週給は80ドル。月給にすると320ドル。日本人の10倍ぐらいの給料だった。大型の自家用車、ハンバーグ、高給などは、当時の高校生にとって、豊かなアメリカを象徴しているといっても過言ではないだろう。
そのアメリカが、いま世界金融危機の端を発している。就任演説でオバマ大統領は「経済はひどく疲弊している。それは一部の者の強欲と無責任の結果だ」「家が失われ、雇用は減らされ、企業はつぶれた。医療費は高すぎ、学校は、あまりにも多くの人の期待を裏切っている」とのべている。
アメリカはもともと移民社会。オバマ大統領は、アメリカ人の価値観は、「勤労と誠実さ、勇気と公正さ、寛容と好奇心、忠誠と愛国心といったものだ」とのべ、「私たちに求められているのは、新たな責任の時代だ。それは、私たち自身やわが国、世界に対する責務があると認識することだ」と演説している。
選挙中のキャンペーン「チェンジ」はたった2回しか使っていない。選挙戦で、民主党のオバマは圧倒的な勝利はしていない。選挙人の最終結果でオバマは69%とっているが、一般投票の得票率ではオバマ52%、共和党のマッケィン47%とかなり接戦している。彼のたんたんとした就任演説は現実的にならざるをえないのが背景にあるのだろう。
ブッシュ政権とは違い、外交路線は一国単独行動から他国間協調に転換する姿勢がみられるが、新自由主義にもとづく経済の市場原理の転換は簡単ではないだろう。
豊かなアメリカを象徴した中産階級でさえ貧富の格差がおきている。とくに1980年代のレーガン時代から庶民に年金、老人医療用の社会保障税への税負担、一方で富裕層への大幅減税の政策にかわっている。富めるものはさらに豊かに、貧しいものはさらに貧困に陥っているのが現実だ。
今朝(1/28)の朝日新聞の「経済危機インタビュー」の記事は興味深い。ニューヨーク市立大学のハーベイ教授は「個人の自由や私有財産を重んじる思想と、政府は市場に介入してはならないとする経済学とが結びつき、上層階級により多くの富を分配してきたのが新自由主義だ」「現に、政府資金の統合は、新自由主義的な支配力の再生・強化につながってゆくだろう」と答えている。
オバマ新政権は、対テロ、環境などブッシュ政権との違いをみせているが、世界経済の悪化のなかで、どこまで政治・経済をチェンジできるか、注目したい。

